怖い話をする前に、部室の暑さに文句をつけ、坂上くんの気の利かなさに文句をつけ
ジュース買ってこいと命令する傍若無人な風間さん。
福沢さんにハンカチを差し出してみたり、荒井さんを小馬鹿にしてみたりとお忙しい様子です。
世の中には利き酒なんぞと言うものがありますが、味覚が優れている人間は多くても
嗅覚だけで酒や料理を言い当てられるほどの人物はなかなかいないと言います。
匂いを重視する商品を扱う場合、匂いのスペシャリスト・調香師が非常に珍重されているのだとか。
しかし、それだけ鼻が良いと、生活に困ることも多くあるようです。
風間さんのクラスメイト・
綾小路 行人くんは非常に匂いに敏感な人物。
鞄に入っている他人の弁当が何だか言い当てられるほどですから、
先生の煙草の匂いや、トイレの匂いなどの悪臭にも苦しめられていました。
そんなある日、いつものように登校した綾小路くんは異様な臭いに激しい頭痛を覚えます。
皆が彼の変調を訝しむ中、担任と共に現れたのは、きつい体臭を放つ太った転校生…。
彼 ―
大川 大介くん― は、何と綾小路くんの隣の席になってしまいました。
大川くんの異臭に息も絶え絶えな綾小路くん。
綾小路くんの更なる不幸は、大川くんが隣の席の自分に一方的な友情を抱いたこと。
それからの日々は、綾小路くんにとって地獄も同然でした。
けれど、綾小路くんもただ黙って耐えているわけではありません。
厚いマスクと消臭スプレーで対抗し、自慢の鼻を活かして、徹底的に大川くんを避けます。
それでも授業中は否応なく大川くんの隣に座り続けなければなりません。
綾小路くんは、本気で退学を考え始めましたが、どこにいても自分を追いかけてくる大川くんが
学校を辞めてもまとわりついてくるのではないかという不安が拭えません。
悪臭のせいで、直接大川くんと話すことが出来ない綾小路くんは手紙を書きました。
自分に近づくなという旨の手紙を教室で大川くんに手渡したのです。
すると、大川くんは大きな声で、綾小路くんが自分を好きだという手紙を寄越したと叫びました。
当然、綾小路くんはそれを否定し、クラスメイトも信じませんでしたが、
若干の疑念と、そちらの方が面白いという気持ちが、それを尤もらしい噂に変えてしまいます。
ついに綾小路くんは、「悪臭を元から絶たなければならない」 という激しい思いに駆られました。
大川さんの家を放火しようとして失敗したばかりか、それを大川くん自身に知られ
脅迫されることとなった綾小路くんは、風間さんが父の海外土産として貰った
黒魔術の道具を貸してくれないかと頼み込んできました。
好奇心からそれを承諾した風間さんは、綾小路くんが悪魔を呼び出し、
大川さんの魂を奪ってもらうその儀式を見学することにします。
午前2時になり、解説書通りに綾小路くんが儀式を始めると、本当に悪魔が現れてしまいました。
魔法陣の中に白い煙が立ちこめ、姿は見えませんが、悪魔は綾小路くんに願いを問いかけます。
そうして綾小路くんは、死後に魂を差し出す代わりに、大川くんを殺してもらう契約をしたのです。
ところが、契約後に煙の中から現れた人影を見て、綾小路くんと風間さんは愕然としました。
何と、そこにいたのは大川くんだったのです。
大川くんの正体は確かに悪魔でした。
綾小路くんを自分のものにしたかった悪魔は、彼が悪魔と契約するこのときを待っていたと言います。
綾小路くんの未来は、悪魔の力による成功が約束されました。
しかし、それと同時に一生…否、死後もこの悪臭を放つ悪魔に取り憑かれる運命も決定したのです。
今でも綾小路くんと大川くんは変わらず学校に通ってきています。
少なくとも大川くんの悪臭で命を失うことはないと判り、諦めがついたのか、
悪魔の執念に根負けしたのか、綾小路くんは少しだけ大川くんを好きになる努力を始めたようです。
小説版だけあって、風間さんとは思えないほど、「長くてストーリー性のある」 シナリオでした。
短くまとめればすぐ終わる話に、装飾をつけて恐ろしくするのが他の5人なら
短くまとめればすぐ終わる話を、脱線させて長たらしくするのが風間さんです。
ただ、このシナリオに関しては勝手に脱線していくと言うより、坂上くんが茶々を入れているもよう。
そして、恐ろしいほどに 「自分は金持ち」 を押してきます。
ストーリーの方も馬鹿馬鹿しいことこのうえないのですが、ちゃんと物語になっており、
なかなか読み応えがあるうえ、ちゃんとオチもついているので面白い内容でした。
>